June 19, 2015

東京バレエ団『ラ・バヤデール』

2009年と2011年に東京バレエ団として、2012年に世界バレエフェスティバルの全幕プログラムとして上演されたマカロワ版の『ラ・バヤデール』全幕が再演された。婚約式までを一幕に納め、影の王国が第二幕、結婚式と神殿崩壊が第三幕。第一幕が70分と長いが、壷の踊りや太鼓の踊りはカットされるなど、婚約式の演出はすっきりとしている。ブロンズアイドルは三幕の冒頭に登場する。

ドラマチックな演出と、役を作り込んだ出演者たちによる、完成度の高い公演だった。何よりもニキヤを踊った上野水香が素晴らしかった。登場の場面はヴェールで顔と手元が隠されているため、足先に注目が集まる。足の裏が床を掴むような一歩一歩に、神殿の舞姫としての説得力があった。これまで以上に上半身を立体的に使い、腕で天秤のような形を作るポーズは、背中から腕にかけての動きが連動し、ポーズとポーズの間が精密につながっていた。元来音楽性の高いダンサーだが、曲の余韻をたっぷりと使う一幕や、音の鳴り始めに素早く乗る影の王国のコーダなど、音楽の使い方に多様性があった。とりわけ登場すぐのソロは、それら全てが上野の踊りとして統合されて、一つの正解を導きだしていた。婚約式のソロでは中盤に、クペからパッセを通りポアントのままアティチュードという、アクロバティックな振りが挿入されていた。難易度が高いにもかかわらず、前後のステップと解離する事なく、ニキヤの追いつめられた精神状態を的確に表していた。感情が盛り上がる場面だけ演技するのではなく、心情の変化と振付を結びつけて、全幕を通した一貫性を示す。高い技術に裏打ちされた、素晴らしいバヤデールだった。

ソロルの柄本弾は、舞台の上でも自然体のように見える。たまに首を傾げる仕草に愛嬌があった。ポーズに入るのが早過ぎたかと思えば、最後の音を頭の角度で上手に消化するなど、細部への気配りが感じられる。影の王国のラストは、移動距離の長いのジャンプが生かされて、ジャンプで舞台を斜めに横切る間に、精霊たちが一瞬で消え去った。ガムザッティの川島麻実子は、柄本と並ぶとことさらに華奢だ。婚約式のヴァリエーションの中盤、斜めのラインの回転のシークエンスで、三番目の回転にアクセントを付けるなど、振付の中の面白みを拾ってはいるがいささか遠慮がち。可憐さと恐ろしさを交えてソロルに結婚を迫る、二幕のラスト以降により個性が感じられた。ニキヤとソロル、ガムザッティとラジャ(木村和夫)の四人が舞台前方で踊る三幕後半では、それぞれが違う立場で冷静さを失っている様子が緊張感を生み、まるでオペラの四重唱の場面のように盛り上がった。

脇を固める出演者たちにも触れたい。ハイ・ブラーミンの森川茉央は、徳の高いお坊さんの仮面を序盤からあっさりと捨て、袈裟から臑だけでなく太もも見えるほど、大きく動きながらニキヤに愛を迫る。苦行僧の入戸野伊織は、ジャンプをしながら高く挙げた腕を振る仕草が大きく、かつ体幹のコントロールを失わないので、空中での体勢の変化が面白い。入戸野のインパクトのある踊りが公演の良い流れを作る、一つのきっかけとなった。ブロンズアイドルに岸本英雄。影の王国のヴァリエーションは第一、二、三の順に、吉川留衣、奈良春夏、乾友子。奈良は、もう一組のキャスト(コジョカルとシクリャーロフ)の公演では、ガムザッティ役で出演していた。

(隅田有 2015/06/13 14:00 東京文化会館大ホール)


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