September 03, 2013

静岡コミュニティダンスプロジェクトvol.3『駿府町HAPPY DANCE プロジェクト〜ダンス革命2013〜バースデー!!』

静岡コミュニティダンスプロジェクトvol.3『駿府町HAPPY DANCE プロジェクト〜ダンス革命2013〜バースデー!!』を見た。コミュニティダンスとは、年齢・性別・ダンス経験・障がいの有無などに関わらず、誰でも、どこででもダンスを創り、踊ることができるという考えのもと、プロフェショナルなダンス・アーティストや実践者がリードすることで、ダンスの持つ力を社会、地域の中で活かしていく活動である。英国で1970年代に始まり、ブレア政権下で大きく発展したもの。「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」という発想が底にある。日本でこの概念と活動が紹介されたのは約10年前だが、ここ数年で著しい発展を遂げている。

その背景として考えられるのは、元々日本には素人が芸事をたしなむ文化があり、現在でも「お稽古事」が盛んなこと、コミュニティダンスと一部重なる概念や活動として、劇場や芸術団体のアウトリーチ活動や障碍者らとのダンス(インクルーシブ・ダンス)等が始まっていたこと、具体的なノウハウや資金を提供するシステムとして、財団法人地域創造による通称「ダン活」(公共ホール現代ダンス活性化事業)等の事業が効果的に機能したこと、JCDNによる活発な企画、サポートが行われたことなどなどがあげられるだろう。

国内各地で様々なコミュニティダンスが起こり、広がり、つながっているのだが、静岡での盛り上がり方には目を見張るものがある。コミュニティダンスの紹介時期を経て、今後の課題として挙げられるのが、ワークショップや創作プロセスをリードするアーティスト、つまりファシリテーターの養成である。現在、関東、関西からコンテンポラリーダンスのダンサー、振付家として活躍するアーティストが地方に赴いて役目を担っているが、いつまでも中央から地方へ、というベクトルばかりではさらなる発展は難しい。各地域で、その地で生活する人の中からファシリテーターが育成され、地元に根付きながら活動をすることが望まれる。静岡では平成23年度に、静岡市民文化会館を中心に様々なダンス・アーティストを招聘してワークショップを行い始めた。すると、翌年には活動に参加した一般社会人によって、市民団体「静岡コミュニティダンスプロジェクト実行委員会(SCDP)」が創設され、市民自らがコミュニティダンスのファシリテーターとしての勉強を始め、ワークショップの企画、実践者としての活動し始めたのである。そして今年、SCDPの中から8名がファシリテーター、振付家としてデビューし、公募によって集まった5歳から78歳までの市民約70名と、ワークショップを重ね、作品を作り上げて上演したのである。

 筆者は昨年夏、静岡市民文化会館で催されたコミュニティダンスのシンポジウムでゲスト・スピーカーとしてお話させていただいたご縁で、今年の春に「コミュニティダンスプロジェクト」の一端を拝見し、さらに今回の公演を見ることができた。可能であれば、市民ファシリテーターたちが、ワークショップ、創作の過程で葛藤し、成長していく姿をじっくり拝見したかったのだが、時間がないまま本番当日を迎えた。せめても、とゲネプロと本番の二回を拝見した。コミュニティダンスのおもしろさは、出来上がった作品を見ることだけにない。参加者とファシリテーター(プロのダンス・アーティストも今回の市民も)が、創作過程(クリエイティブ・プロセス)の中でどのように変化し、彼らの芸術的な感性、仲間やスタッフとのコミュニケーションがいかに育まれ、それが作品に投影されるかを見ることが、筆者にとってはより大きな楽しみなのである。

 果たしてゲネプロでは、初めて大きな舞台で踊るため、空間やタイミングがうまく測れずに踊りに集中できない参加者もおり、全体的にまったりと進んでいた。そこに、全体を監修したアオキ裕キが、穏やかにダメ出しをし、できる限りの修正、調整を施していた。この状態で、見に来てくれた観客を満足させることはできるのだろうか、とやや心配になったのは事実だ。今回は有料のチケットを販売して、プロの公演に負けない音楽、美術、照明等のスタッフを配して公演を行っている。つまり、友人や家族に向けたお稽古ごとの発表会とは異なり、作品として観客を満足させ、「次の公演も見たい」「自分も参加したい」と思わせるようなレベルまで高めていくことが必要なのだ。

 831日(土)18時、静岡市民文化会館の中ホール。客席は使わず、大きな舞台上に上演スペースと階段式の仮設観客席を設置した空間は、舞台袖のカーテンもなく、客席からは舞台横で準備しているダンサーたちも、舞台監督や音響スタッフも見渡せる。その客席と舞台が一体となった解放感、親密性が心地よい。舞台下手には、参加者が海岸で拾ってきた流木で作った木のオブジェが、美しく、シンプルに、堂々と立っている。上手にはギター(丸山研二郎)、篠笛・パーカッション(原口朋丈)のミュージシャンが座り、その手前にも流木が置かれている。暗転の後、始まったのは運動会の開会式。チームD(ナビゲーター:島大介)による「そろったところで始めよう、運動会を。」である。その後、次々とチームが登場して彼らが作ったダンスを踊り、演じていくのだが、単に作品を続けるだけでは観客は飽きてしまう。そこで監修のアオキは、「運動会」のダンスをシーンで分割し、また「餃子づくりのダンス」も分割し、要所要所につなぎとして挿入しながら、各チームのダンスを上演していったのである。

タイトルとファシリテーター(プログラムではナビゲーターと表示)のみ記すと、チームW(ナビゲーター:大内亘)「月と花」、チームR(ナビゲーター:小林レーコ)「てのひら」♡ほっこり 大人になっても母子ダンス、チームK(ナビゲーター:渡邊一美)「おとぎ話の住人」干支キッズ、ダンス&アート、チームG(ナビゲーター:がっぱい)「イキモノに、なる」ぼうけんしたい子あつまれ!山のいきものとボクらの、ドキドキダンス、チームE(ナビゲーター:エリリーン)「踊るマハラジャ☆しぞーかスペシャル」インドなダンスを踊ろう!、チームN(ナビゲーター:野沢夕紀子)「女神の森」、チームY(ナビゲーター:岡本有美子)「お父さんの詩」。参加者の年齢もバックグランドも様々ゆえに、作品も多様であり、美術(出川晋 with HAPPY DANCE 美術隊改め「スンパ美」)と音楽、照明が非常に効果的に働いている。そして重要なのは観客の存在。恐らくはほとんどが出演者からの紹介であろうが、寛いだ雰囲気で暖かく見守っている。これらすべてが一体となり、総合されて心地よい緊張感とテンポを生み、公演は時間を忘れるほどに楽しく進んでいったのである。

人前でダンスを踊るのは初めてという人が、約半数はいる素人ダンサーたちの集中力たるや、まったく見事なもので、ゲネプロとは別人のよう。振りと振りの間、観客の反応を的確につかみながら、作品の流れをコントロールしている。恐るべし!

もちろん彼らのほとんどはダンスの経験などないため、バレエやヒップホップのように目を見張る技術はできない。幼児もいれば高齢者もおり、からだの可動域も運動能力も限られている。それでも、彼らは自らがプロセスに参加しながら創作した振付、動きの一つ一つに自らのリアリティを込め、舞台に立つことに新鮮な驚きと真剣さをもって臨み、それぞれの歴史や人生を感じさせる立ち居振る舞い、身体の存在感を披露した。そこに、美術や音楽が加わり、作品全体の魅力を倍増させる構成、演出が施されることで、優れた公演となったのである。コミュニティダンスの可能性を大いに楽しく、嬉しく堪能させてくれた公演であった。(稲田奈緒美 2013/8/31 18:00 @静岡市民文化会館)



inatan77 at 22:19舞台評 
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