August 22, 2013

『ArtsCross London 2013 - Leaving home: being elsewhere』

 81日から11日まで、ロンドンで行われた『ArtsCross London 2013』に参加した。「Arts」が「Cross」するという造語を冠したこのプロジェクトは、英国、中国、台湾のコンテンポラリーダンスの振付家が、三カ国の若いダンサーに振り付けし、作品を仕上げていくクリエイティブ・プロセスを各国の研究者が観察するというもの。振付作品は、劇場でのパフォーマンスとして成果が披露され、研究者たちはシンポジウムで発表、ディスカッションを行うことが目的である。

プロジェクトの前身となるのは、2009年に行われた『DansCross Beijing 2009 – Dancing in A Shaking World』であり、この時は中国の北京舞踏学院、英国のミドルセックス大学レッセン研究所が共催し、英国を中心とする振付家4名、北京舞踏学院の振付家4名が、北京舞踏学院の学生と、卒業生からなる若手カンパニーのメンバーに、約10分の作品を振付け、北京市内の劇場で上演された。同時にシンポジウムが北京舞踏学院で開催され、中国、英国を中心とする研究者が発表を行った。筆者は、光栄にもこのプロジェクトに日本から一人参加し、夏のリハーサルを観察した後、秋の公演とシンポジウムで再び北京へ渡った。レッセンのHPにプロジェクトの詳細な報告があるので、以下をご覧いただきたい。

http://www.rescen.net/events/danscross09/DANSCROSS09.html#.UhWqNuaCjIU

また、後日執筆した論文は、『北京舞踏学院学報 2011増刊』に英語と中国語で掲載されている。

 このプロジェクトが発展して、2011年には「ArtsCross Taipei 2011 – Uncertain…waiting」とのタイトルで、上記の二機関に加えて台湾の国立台北芸術大学、英国のQueen Mary大学による共催となり、台北で開催された。残念ながら筆者は、この年は参加していないが、その記録は同様にレッセンのHPから知ることができる。

http://www.rescen.net/events/ArtsCross_11/ArtsCross_1.html#.UhWql-aCjIU


 昨年は、『ArtsCross Beijing 2012 – light and Water』とのタイトルで、11月に北京舞踏学院で開催され、筆者も参加した。この様子もレッセンの以下のHPで詳細に紹介されている。「Visual Documentation」では、リハーサルの経過から公演当日のパフォーマンスまで見ることができる。また、blogには、参加した研究者たちがクリエイティブ・プロセスを通して観察したことを多数投稿している。

http://www.rescen.net/events/ArtsCross_12/ArtsCross_12_1.html#.UhWwQeaCjIU


 そして今年、場所をロンドンに移して、『ArtsCross London 2013 - Leaving home: being elsewhere』が行われた。7月中旬から3週間のリハーサルと、810日のパフォーマンスが行われたのは、ロンドンのコンテンポラリーダンスのメッカである、The Placeであり、811日のシンポジウムが行われたのはQueen Mary大学である。筆者も参加し、旧知の英・中・台の研究者らとクリエイティブ・プロセスの観察を行いながら、頻繁にディスカッションを行い、シンポジウムでプレゼンテーションを行った。
http://www.rescen.net/events/ArtsCross_13/ArtsCross_13_1.html#.UhWyA-aCjIU


 個々の振付家とダンサーたち、リハーサルと作品については、
blogで映像と共に詳細にレポートされており、公演当日のレビューは舞踊批評家が投稿している。文章は英語と中国語のみではあるが、映像を見るだけでも、多様な文化を背負ったダンス・アーティストが家を離れ、言語も文化も異なる人々とコラボレーションをしたプロセを知ることができるだろう。各作品には、必ず三カ国のダンサーが最低一人は含まれること、10分以内であること、「Leaving home: being elsewhere」とのタイトルから創作することなどの条件があるが、内容は自由である。与えられた時間は、ダンサーのセレクションから公演当日までわずか3週間であり、9名の振付家は一日3時間ずつのリハーサルしかできなかった。ダンサーは、英・中・台から各10名が参加し、一作品または二作品に出演している。北京舞踏学院からは修士生と若手カンパニーのメンバーが、台北国立芸術大学舞踊コースからは学部生、修士生が参加した。英国のダンサーには大学、バレエスクールを卒業したばかりの新人から、既にプロとして踊っている若手ダンサーまでいる。

面白いのは、英国の振付家、ダンサーといっても、英国生まれの英国育ちという人はごく少数であるということ。民族の坩堝であるロンドンの中でも、ダンスの世界はさらにコスモポリタンであり、国家や民族といった単純な分類は不可能であるため、London based というまとめ方しかできない。例えば三人の振付家は、イタリア人、ドイツ人、ベトナム系アメリカ人であり、ロンドンで活動している。中国の振付家、ダンサー、研究者も実は非常に多様であり、中国や北京といった単一の性格付けには収まらない。チベット出身、青島出身などと、大きく異なる文化で生まれ育っている。台湾は国家の歴史として中国、米国、日本の影響を強く受けている。この三カ国以外から参加したのは、米国の研究者一名と筆者のみ。既に、何度かプロジェクトに参加している仲間ばかりであるため、今回はステレオタイプな国の顔を離れ、個人と文化、歴史を意識的に取り上げながら、緊密なディスカッションを行うことができた。このような国際交流の場では、最所は“国”という大きな括りでの情報発信、理解から始まるが、回数を重ね、信頼関係を増すにつれて、単純化されない多様な文化や歴史が浮かび上がり、相互に理解しあいながらディスカッションを行うことが可能となる。使用言語は英語と中国語であり、やはり言語の壁は大きいが、ダンスの創作においても、研究においても、まさに「Arts」が「cross」する場であり、途中から私たちは「artscrossing」という動詞によって、私たちの経験を表現し始めた。

いずれ、論文集が刊行されることと思うが、プロジェクト全体に関する報告を、今回は簡単に投稿した。(稲田奈緒美 Naomi INATA  2013年8月1〜11日、ロンドン・The Place, Queen Mary University

 

 



inatan77 at 16:48舞台評 
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