October 01, 2011

劇場の発見 VOL.1 〔ダンスの作業から〕

そもそも、劇場って何だろう?―― 思わずはっとするこの問いの答えを、パフォーミングアートを通して探る『劇場の発見』シリーズが、東京・荒川区で誕生する。記念すべき第1回目のテーマは「ダンスの作業から」。コンテンポラリーダンスを始め、パーカッション、常磐津節、哲学、はては漫画……と様々なジャンルを巻き込んで、観客とともに「劇場」と「ダンス」を探しにいく、刺激的なイベントになりそうだ。公演からワークショップ、トークセッションと、103日から始まる盛りだくさんの1週間について、制作の大神舞子氏(株式会社シービーシーメソッド)に話を伺った。



 

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――シリーズ「劇場の発見」の誕生した経緯を教えていただけますか?

 

大神:昨年、一昨年と、ダンスと照明のワークショップ「ダンス・ライティングワークショップ」を開催しました。その際の、大野洋(本シリーズプロデューサー、株式会社シービーシーメソッド代表)と、今回のプログラムディレクターである山田せつ子さんの出会いがきっかけです。このワークショップは、表現者と、照明だけでなく舞台を支える全ての裏方が、創造のプロセスを共有し、協働を実践する場となりました。その中で、プロデューサーの大野の中に、山田さんへの信頼が芽生えたのが、今回の出発点です。

今後も、本シリーズを様々なテーマで継続させていくことが目標です。

 

――記念すべきシリーズ第1回目、ダンスにフォーカスされています。そして、身体がサブテーマともいうポジションに置かれていると感じます。その狙いをお聞かせください。

 

大神:旧帝国劇場開場からの100年の歴史において、私たち日本人が学んできた西欧の舞踊文化は、特に身体表現という点で、純粋なエネルギーによって生まれる舞台芸術で、コンテンポラリーダンスには、総合芸術性や新たな空間芸術としてとても大きな可能性がある……プロデューサーがそう期待して、ダンスに注目したのだと思います。「ダンスを知る」ことの一つに、コンセプトとして「身体を知る」ということがあるのではないかと考えました。ダンスという単語一つだけでは表現することのできない余白の様な部分に、身体があるのではないでしょうか。観客が、ダンス公演を眺めるだけではなく、ダンサーの身体性に注目し、踊るという行為やダンサーの切実な身体を「感じる」ことで、ダンスの本質を見ることができるのではないかと考えました。

 

――パフォーマンスの上演の他、ワークショップ「体奏の時間」「身体をめぐるトークセッション」も設けられています。福祉、教育、そしてマンガと、ダンスが劇場を離れ、更に幅広い枠組みで考察されるのですね。

 

大神:日本では、このわずか20数年程の間に、劇場の機能を持った「ホール」という名称の施設が2000超も創られました。同時に、「劇場という場所イコール非日常的空間」というイメージも創られました。その過程には、時代・地域ごとの文化的特性・背景があります。弊社シービーシーメソッドは、今回の会場となる日暮里サニーホール、荒川区ムーブ町屋の指定管理者ですが、特に、現代社会が公共ホールに求める役割とは何かを真剣に考え、ホールを造ってきた歴史があります。

 今回、「ダンスとは何か」「踊るということは何か」「身体とは何か」という問いをアーティストから発信し、その答えの糸口を探るために、多面的にアプローチしてみることにしました。このように漠然とした問いも、いろいろな角度から見つめてみることで、さまざまな可能性を見いだせるのではないでしょうか。

 例えば、ダンスアーティストで体奏家の新井英夫さんの「からだのワークショップ 体奏の時間」です。フライヤーの紹介文では「ダンスのようでダンスじゃない?」と、ダンスのワークショップであるというイメージを濁すような言葉を用いました。「ダンス」と意識した時、人はどうなってしまうか、何となく想像がついてしまいます。しかし、からだを動かしていくうちに、それが自然とダンスになっていた、という経験はなかなかありませんし、その瞬間、新井さんの持つ身体性が観客に伝わるのではないかと思います。自然とダンスになる、そのハードルを超えた時、人の中にあるダンスの概念が崩れて、新しいものが生まれるのではないでしょうか。

 

――Twitterの劇場の発見アカウント@gekijo_n_hakkenによると、企画がスタートしたのは昨年10月とのこと。ここに至るまでに311日の東日本大震災がありました。震災を経ることで、コンセプトや内容に変化は生じましたか?

 

大神:今回の震災では、予定していた出演者の家族も被災されましたし、この公演自体、本年5月に予定していましたが、延期を余儀なくされました。加えて、放射能というどうにもできない状況が、作品を創造する上でも大きく影響していると考えられます。

 この国の文化の根幹には、“自然”の大きな力が築いてきた歴史があります。加えて、現代は、近・現代の科学や技術の革命的な進歩、そして20世紀以降の西欧文化との融合と発展を体験しています。企画意図は、震災前と同じです。気軽に参加でき、楽しみながら創作プロセスを体験できるということに重点を置いています。しかし、話し合った結果、それらを現在のシリアスなタイトルに収斂しました。開幕を控えた今、震災を経験したことで、再度踊ることに立ち帰り、感性を丸ごと使って新しい発見を共有し、実感して、満足していただけるように、力を注ぐことになった……そう言えるでしょうか。

 

――今回、振付家の鈴木ユキオさんが『LEVEL 7 ただちに影響はありません』と題してダンスクリエイションを行います。タイトルを拝見すると、震災を意識したものになるのでしょうか。

 

大神:本番ではトークの時間も設けられていますから、これは是非本番で直接本人に聴いていただきたいですね。「……なるほど」と唸ること間違いなしです。

 鈴木さんは、劇場へ足を運ぶことが、美術館へ足を運ぶのと同じくらいの気軽さになればと普段から感じているそうです。そこで、実際に作品を鑑賞していただくのと同時に、ダンスや作品についての解説を含めたトークセッションが加わりました。作品についてダンサーがその場で語り、作品の持つ力強さを言葉でも実感することで、観客が更に理解を深めることを、作者や表現者が強く望んだ企画となっています。美術館でも行われているセミナーのような感覚で、気軽に参加していただきたいですね。“ことば”を大切にするのは山田せつ子さんと鈴木さんの共通意識で、鈴木さんのクリエイションにも強く反映されているのではないかと思います。

 

―― その山田せつ子さんの、ディスカッションダンス『オドル/反復 流転169分』もユニークな試みです。観客は、上演中でも客席を自由に出入りすることが出来ます。ウェブサイトに記載された「見ることをオドル」という説明文もとても刺激的ですね。

 

大神:「反復 流転 169分」というのは、フランス文学研究者の宇野邦一先生がこの公演に対して提案してくださったコンセプトです。それに基づき、作品づくりに取り組んでいます。主に「時間」が持つ性質について思索した作品で、公演が行われる169分もの間、客席でその時間を過ごすことは、ダンサーと観客の皆さんが時間を共有することになる。そして空間とダンスとともに旅をする感覚になる、それが「見ることをオドル」につながるのではないかと思います。

 

―― 音楽も、即興的なパーカッション、そして歌舞伎の音楽でも知られる浄瑠璃音楽、常磐津のコラボレーションと、ユニークな試みですね。

 

大神:日本には、日本の社会と人が自然との強い結びつきの中で育ててきた独特の文化があります。邦楽もその一つです。今回出演される常磐津和英太夫さん、常磐津菊与志郎さんは、弊社の事業である「たのしい常磐津の時間」にも出演され、毎回趣向を凝らした異ジャンルとのコラボレーションで人気を博してきました。コラボレーションは、弊社の社名に込められたコミュニケーションのメソッド【CBC Method:Culture Build Communication Method】で、自由な創造を通し、総合的で新しい劇場文化の地平を意識することです。今回は、コンダクターとして作曲家の港大尋さんに入っていただきまして、個性あふれる音楽を融和させる試みを続けているところです。

 

―― このようにアーティストがジャンルを越えて結集しています。皆さんからは、「劇場の発見」について、これまでにどんな意見や感想が出ていますか。

 

大神:企画が立ち上がってから、創造のプロセスは1年近く続きました。そのプロセスそのものが、参加してくださったアーティスト全員に「ダンスの心」に対する強力なフィードバックになったと感じています。戸惑いやたじろぎもあったかもしれません。ダンス、音、音楽……すべてのジャンルが垣根を超えて協働し、“ことば”、そして自らの身体を探りながら、多くの段階を乗り越えてきました。間もなく開幕を迎えますが、アーティストの皆さんには、共通の作品像が出来上がっているようです。試行の時間は、舞台の幕が上がるぎりぎりまで続きます。そんな困難を乗り越えて生まれる、そこに劇場という「場」「空間」の役割や可能性を、観客の皆さんと一緒に発見したいです!

 

――最後に、ダンスタイムズをご覧の皆さんにメッセージをお願いします。

 

大神:私は、「ダンサーはどうして踊るのだろう?」という興味を常に抱きながら仕事をしています。その興味の先には更に、ダンサーの身体があり、踊ることに対する強い思いがあります。その思いに答えをくれるようなダンスを見た時、ダンスの本質に一歩近づけたと感じます。この企画では、普段見ることができない切り口からダンスにアプローチします。少しでも皆様の心のアンテナに引っかかりましたら、ご覧ください。皆様お一人お一人の“劇場の発見”に胸を膨らませながらお待ちしております。

 

(安藤絵美子 2011年9月)

 

<公演概要>
劇場の発見 〜Vol.1 ダンスの作業から〜

日程2011103日(月)〜9日(日)
会場:荒川区ムーブ町屋、日暮里サニーホール


参加アーティスト:
新井英夫/白井剛/鈴木ユキオ/安次嶺菜緒/加藤奈緒子/ユンミョンフィー/山田せつ子 港大尋/クリストファー遙盟/常磐津和英太夫/常磐津菊与志郎/井谷享志/高遠彩子
 詳細やワークショップ、トークセッションにつきましては、
公式サイト
http://cbc-method.co.jp/dance/をご覧ください。



emiko0703 at 11:22公演の見どころ 
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