April 10, 2011

【公演の見どころ紹介:16】映画『DANCING CHAPLIN』

ローラン・プティが1991年に振付けたバレエ『DANCING CHAPLIN』が、ルイジ・ボニーノ、草刈民代の主演、周防正行の監督で映画化され、この4月16日から一般公開される。

 プティは、喜劇王として知られるチャーリー・チャップリンの数ある映画の中から、20の場面を選び出し、それを2幕のバレエに仕立てた。そこでチャップリンの役を演じたのがルイジ・ボニーノだった。プティは、はじめから彼のキャラクターに着目してこのバレエを振付けたのだ。
 マルセイユで初演された『DANCING CHAPLIN』は大成功を収め、世界中で上演されることになった。日本でも1996年10月に、ローラン・プティ・バレエ団がゆうぽうとホールで、ルイジ・ボニーノとアルティナイ・アシルムラートワの主演で上演している。
 このバレエには、チャップリンの映画の名場面が次々と出てくる。バレエ・ダンサーとしては、必ずしも恵まれたスタイルとは言えないボニーノが、チャップリンの役にはぴったりであり、各場面をバレエとして、また悲喜劇として、おもしろく、しみじみと見せてくれる。
 『DANCING CHAPLIN』を映画にしたらという話は、プティの奥さんのジジ・ジャンメールから草刈民代に伝えられたということだ。それはルイジと草刈の主演で撮るというアイデアだった。ジジは草刈の旦那が映画監督であることを知っていてこの話を持ち込み、周防監督としても乗り出さざるをえなくなって『DANCING CHAPLIN』映画化の企画が実現したのだろう。
 映画は第1幕「アプローチ」、第2幕「バレエ」という2幕仕立て。「アプローチ」では、周防監督の撮影プランに原作者のプティが反対するところ、リハーサルで草刈が苦労しているところなどが映っていて、裏の込み入った事情を観客も少しのぞくことができる。そして「バレエ」では、冒頭の「チャップリン〜変身」にはじまり、舞台での20の場面の中から「ライムライト」「街の灯」「黄金狂時代」「キッド」「モダンタイムス」「犬の生活」など、13場面が踊られる。
 ルイジはチャップリンとして映画の中のキャラクターを演じわけ、草刈は映画の中でさまざまに変化したチャップリンの相手の女性の役を演じわけた。1949年生まれで還暦を過ぎているボニーノ、1965年生まれでバレリーナ引退を宣言した草刈の二人だが、どちらもとてもよく踊っていて魅力たっぷり。そしてバックの男性たちがすばらしい。
 プティは、映画の中からボニーノを使ってチャップリンを舞台に引き出して見せてくれた。それを周防監督は、ふたたび映画の中に戻すというかなり損な役割を引き受け、ボニーノ主演の『DANCING CHAPLIN』を映像としてバレエの歴史に残してくれた。
 バレエの事情に詳しい人にとって、この映画は隅から隅までおもしろい。そうでない人にとっては、喜劇の王様チャップリンの魅力を元の映画以外の切り口で知ることのできる良いチャンスになるのではないだろうか。
(山野博大 2011/03/02 18:30 ル テアトル銀座)


emiko0703 at 07:55公演の見どころ 
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