June 08, 2010

ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団『私と踊って』

ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団の来日公演を滋賀県立芸術劇場(びわ湖ホール)で拝見した。



ピナ・バウシュは昨年の6月に急逝したドイツの振付家で、彼女の死は世界中のダンスファンに大きな悲しみを与えた。今回の来日公演は、彼女が亡くなって初の来日公演であり、カンパニーの新たな第一歩だといえよう。今回は滋賀(びわ湖ホール)と東京(新宿文化センター)の2ケ所で公演が開催されたが、びわ湖ホールは彼女が日本で公演を見届けた最後の土地でもあり、ここで新たな門出を迎えるということは非常に感慨深い。

上演された作品は『私と踊って/Komm tanz mit mir』。初演は1977年で、今から33年前につくられている。作品の中には暴力性を感じさせるシーンもあり、セリフも多様される。初演当時、ときにブーイングが起こることもあったと聞いているが、誰もが目を背けたくなる状況を敢えて抉りだし、作品として構成する振付家としての視点は見事だ。

「私と踊って!」とくり返される言葉が、さまざまな感情に彩られ傷だらけになりながら観る者の心の中に飛び込んでくる。純粋に求めることがこれほどまでに切なく痛々しいものかと改めて思わずにはいられないだろう。だだをこねるような仕草が何度も何度もくり返され、激しさを増していく少女に観客は何を見るだろうか。服を脱ぎ、何種類ものドレスを着替えてはまた脱いでいく少女。その姿には、戸惑いながらも必死で生きようとする不器用な姿が滲んでくる。

舞台美術はほぼ舞台の幅に相当するほどの大きな幕が天井近くから床までスロープ状に角度を持ちながら落ち、そのまま舞台手前まで流れている。スロープからは時折ダンサーたちが滑り降りてきたり、駈けあがったりする。こうしたサプライズ的な演出をピナ・バウシュ作品の中では多く目にするが、こうした部分に彼女のユーモアを感じる。痛々しい表現に「そんなことが舞台で出来るの?」という驚きと意外性が挿しこまれ、感情のあらゆる部分を作品全体で揺さぶってくる。


ピナ・バウシュは亡くなったが、彼女の作品はこれからも生きていく。33年前につくられた作品がこうして鮮やかに上演されることは、とても素晴らしいことだ。これからも、作品が上演され続けることを心から願う。(亀田恵子 2010/06/04 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール)

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atl_on_dancetimes at 01:12短評 
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