April 19, 2010

エイブルアート・オンステージ コラボ・シアター・フェスティバル2010『はらっぱのダンス』

今まであまり見たことのない、ダンスのような演劇のような、踊っているような遊んでいるような、非常にバラエティに富んだ、6つの楽しいダンス作品が上演された。最初の「桃色のメロディ」(振付:高橋砂織、出演:前田由起枝)は、ちょっと甘酸っぱい桃色の思い出や、日常の思いが繊細な動きの中に込められたダンス。次く「touching face」(テキスト:牛若幸治、演出・振付・出演:牛若幸治、伴戸千雅子)は、牛若君が見た3日間の夢を表現したもの。牛乳のお化け(?)のような伴戸が、牛若君にまとわりついたり、案内したりと奇妙な関係がユーモラスに語られ、踊られる。「とあるオトコ2人、イメージの競争のもとに」(振付:星加昌紀、出演:信田基、星加昌紀)は、動き回る男(星加)と床に座った男(信田)の対照的な動きから始まり、様々に踊っていく。印象的だったのは、2人が床に寝そべって腕のみを動かして踊るシーン。譬えるならば、ポスト・モダンダンスのトリシャ・ブラウンによる有名な「アキュムレーション(集積)」と同じような設定なのだが、ブラウンは無機的な動きを集積していく実験を行うのに対して、この2人はシンプルな動きの背景に彼らの思いやイメージを託している。穏やかに交流し、相手の気配や思いを受け止めながら動く様は、豊かで美しかった。「どこへ行こうか」(振付:山田珠美、出演:風間毅、とまるながこ、野田雅巳、山田珠美)は、台詞あり歌ありで、タイトル通りに「どこへ行こうか」とからだで探す楽しい構成。「約束の花」(振付:合田緑×砂連尾理、出演:青木友実、白井宏美)は、女性二人が近寄ったり、離れたり、語り合うように踊る。そして最後の「ここだけの話」(振付:砂連尾理、出演:安藤共博、佐々木大喜)は、スーツ姿の青年2人が朴訥とした雰囲気で、まるでボケと突っ込みのように細かな仕草でやり取りをする、遊び心に満ちた作品。

 この「はらっぱのダンス」と題された公演は、明治安田生命とエイブル・アート・ジャパンが共同で、2004年から実施してきたプロジェクトの集大成として企画された、「エイブルアート・オンステージ コラボ・シアター・フェスティバル2010」の最終日に行われたもの。今までの活動で創られた作品から選ばれた小品によって構成されており、その他の日には、演劇、ダンス、音楽が上演された。このプロジェクトは、障がいのある人とアーティストが出会い、舞台作品を創るためのものだが、目的は障がい者、健常者などが「インクルーシブ」であることだけでなく、その先にある、今までにない出会いによって生まれる創造性であろう。それは、既存のダンスや舞台作品の価値観や基準によって評価される、面白さや美しさでは決してなく、むしろそれらを乗り越える、新たな可能性を提示するものである。その道は容易ではないが、これらの小品はそこへ向かって踏み出している。このような活動が継続され、より多くの人の目に触れることによって磨かれ、鍛えられて、さらに力強く、美しい作品に進化していくことが望まれる。(稲田奈緒美 2010/3/26 19:00 アサヒ・アートスクエア)



inatan77 at 20:33舞台評 
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