April 18, 2010

バレエ団ピッコロ附属研究所第49回発表会

松崎すみ子が主宰するバレエ団ピッコロ附属研究所の第49回発表会で、松崎えりの創作2作品を見た。発表会は、そこに所属する子供たちが主役だが、その間に創作のチャンスを求める若手振付者の思いがけない力作が紛れ込んでいることがあり、油断がならない。
松崎えりはすでに、2008年にアサヒ・アートスクエアで、中村恩恵、松本大樹、森本由布子、大嶋正樹、小尻健太、首藤泉、スズキケンタローという豪華なダンス陣を動かした大作『TRIP』を発表しているし、2009年の西島千博がプロデュースした《バレエ・リュッス100年記念ガラ》では、『ナルシス』を青木尚哉を相手に自作自演し、空間を大きく使ったダイナミックな動きの処理で見るべき成果をあげている。この日彼女は、研究所のトップのひとりと目される山口裕美と小出顕太郎によるデュエットの『road』、若い女性ダンサー10人を使った群舞の『butterfly』の2本を見せてくれた。
『road』は舞台の奥に白く光る道が横に長くのびているという幕開け。その両端から小出と山口が登場する。中央で出会う瞬間に道は方形の広場に変わる。さらにその場の状況をさまざまに変えて、ダンスの展開に対応する(照明=松崎康道、岡沢克巳)。二人は、たんたんと流れるピアノ曲(曲名は不明)で踊る。しかし段階的に両者の組み方の調子を変えて、男と女の関係の進展を描いている。動きの質を場面に応じて微妙に使い分け、そこにドラマを出現させたのだ。
一方『butterfly』は、さらりとした動きの展開がさわやかな一本だった。若いダンサーたちをコンテンポラリーの動きに慣れさせるという、発表会ならではの目的意識がどこかに見えたような気がしないでもない。しかし、仮にこれをバレエ団のソリスト・クラスの人たちが踊っていたら、そういった印象は持たなかったかもしれない。この作品はバレエ団の公演でもう一回見て、確かめてみたい。
松崎えりは、次の時代を担う振付者として期待されるひとりだ。できるだけ多く作品を発表し、経験を重ねて大成してほしい。しかし今の日本のバレエの状況は、振付者を育てるという点からはかなり厳しいと言わざるを得ない。作品の発表にはそれなりの出費を覚悟しなければならない。仮にそこで良い作品が生まれたとしても、それを買おうというバレエ団はないのだから、まことに割の合わない仕事ということになる。たとえ発表会というマイナーな場であったとしても、作品を出せる機会を与えられた人はラッキーなのだ。見る側としては、できるだけそういう得難い機会に巡り合えるように心がけ、次の時代の日本バレエの進化を夢想するのである。
(山野博大 2010/04/03 15:00 練馬文化センター大ホール)


emiko0703 at 22:56舞台評 
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